恋する君の可愛いつよがり。



「ここ、座って」


「え、あ、うん」



連れて行かれたのは、体育館内にある自動販売機前のベンチ。


そこに「座って」とさわやかな笑顔で言われた私は、由弦くんに言われた通りベンチに腰を下ろした。



「わ、ふかふかだ!しずむしずむ。凄いっ!」



思ってたよりもずっとずっと柔らかかった茶色のベンチ。


私はそのふわふわの感触に感激して、何度も何度もバウンドをしてそのふわふわの感触を楽しんだ。


すると。


「プッ」


不意に聞こえてきた声。


チラリ、聞こえてきた方へと振り向けば、声の犯人は隣にいた由弦くんで。



「……むぅ」



由弦くんはわざとらしく私から顔をそらして、フルフルと肩を震わせながら笑っている。


そんな由弦くんにむっと口先がとがる私。



……絶対馬鹿にされてる。


その証拠に、由弦くんの大きな手のひらではポケットから取り出したであろう小銭が今にも落ちそうになっていた。



「ははっ、面白いっ」



どうやら私の言動がツボッたらしい。



「由弦くん」



静かにそう制すれば、由弦くんはコホンと一つ咳払いをして。



「六花ちゃん、何飲む?」



まるで何ごとも無かったかのようににっこりと笑った。


当然、そんな作り笑いに素直に返事なんて出来る訳がなく。


「………」

「………」


二人の間を冷たい空気がゆっくりと通りすぎていく。