「どこ行くの」

「今日のデート楽しみにしてたんだろ」

「…もういいよ。無理しなくても」


ややあってハア、と彼のため息が聞こえた。


「あのなあ、俺だって必死なんだよ」

「…」

「あんたからしたら俺はヘタレにしか見えないかもしれねえけど、俺だって忘れたいんだ。ーーあの人のこと」




初めて聞いた彼の、本音。



わたしはうつむいた。



そうだよね。

好きな人をすぐに諦めるなんて無理な話に決まってる。


わたしだって伊織君のこと諦められないんだもん。


やっぱり、すきだから。

どうしても嫌いになれないから。





でもーーーーーー。








「でも…」



彼はぽつり、と呟くように言った。



「いい加減、立ち止まってないで前を歩かなきゃな」





冬風が冷たい。



彼が振り向く。

それから意を決したような面持ちでわたしをじっと見つめた。






「会わせて」





誰に、と聞くまでもなかった。






「あんたの姉貴に、ーー茜さんに」