世界で一番、ずるい恋。






この角を曲がって、真っ直ぐ進めば、そこは昨日やさっきまでいた数学準備室。

よし、もうすぐ着く。



だけどその距離が近づくにつれて足取りが重くなる。


引き返すなんてことは許されない。


せっかく千堂くんが背中を押してくれたんだよ?

千堂くんの優しさを無駄にするの?

踏みにじるの?


そんなのこと出来るわけがない。


ドアを目の前にし、深呼吸。

大丈夫、大丈夫……。


ゆっくりと瞬きをしてドアに手をかけた、その時。




「…ねえ………」




ーー誰か、いる?


中から微かに聞こえた話し声。

それは先生の声じゃなくて、確かに " 女の声 " だった。



盗み聞きは良くない。

そんなこと分かってるけど…。



私はドアに顔を寄せて、そっと耳を澄ました。





「怒らせちまったんだよな…」





次に聞こえたのは、先生の声。

怒らせたって…私のことかな?



なんて、ちょっと自意識過剰かな?