やっぱりそんなこと知ったら引いちゃうよね?

それとも、ガキが何言ってんだって相手にすらしてくれないかな?



「……阿波?」



飴を食べ終わったのかな。

じっと見つめ続ける私の名前を心配そうに呼んだ。



「ねえ、明日も教えてくれますか?」



約束が欲しい。

明日も貴方と話せるって、一緒にいれるんだって思える、その為の理由が欲しいんです。



日が暮れてきて窓から差し込む夕日が先生を照らす。


その向こうに見えるのはいつもいる図書室。

だけど今私がいるのは、眺めるだけだった準備室。


やっと踏み出せた小さな一歩。

だけど私にとっては果てしなく大きな一歩。

お願いだから、もう一歩だけ進ませてください。



「……いいよ。やっと阿波が数学に対してやる気になってくれたみたいで俺は嬉しいから」




オレンジ色に染まる先生が浮かべた笑みは、今まで見てきた中でどれよりも優しくて、何だか苦しくなった。

……今日だけで私の中にどれだけの好きが積もったのかなんて、先生は考えもしないんだろうね。