「こっち来るか?…おい、他のとこに隠れるぞ」
「え、あぁ……うん」
腕を引かれ、近くの倉庫の影へと身を隠す。
暗くて少しジメジメした、その場所が何だか落ち着かなくて、こっそり顔を覗かせると、恋那ちゃんが通るのが見えた。
先生は……って、そうか。
ひっそり会ってるんだから、一緒に通るわけないよね。
「なら、次はーー」
「文化祭、まわらないの?」
今日くらいこのことは忘れたって良いじゃん。
律はまだ、先生のあとを追うつもりなの?
「こういうときの方が、油断してんだよ」
確かに、そうかもしれない。
だけど……高校生活最後の文化祭だよ?
これじゃ、寂しすぎるよ。
私が巻き込んだのに、こんなことを思うのは変なのかな?
「なら、茜は回ってきていいぞ」
そう言うと律はポンポンと私の頭を撫でながら優しく微笑んだ。
ーー意地悪だ。
優しい仮面を被った、天使のフリをした悪魔だ。
私には律がいなかったら、一緒に回る人がいないこと、知ってるくせに何でそういうこと言うの。