部屋着を乱暴に脱ぎ捨てて、その後に肌がちりちりと痛むほどに熱いシャワーを浴びた。
そしてとっておきのワンピースを張り出す。少し寒くなりかけた今の時期には不似合いの半袖のものだけれど、構わない。

それを身につけ、髪の毛を丹念に梳いて。自分が出来る範囲で一番丁寧に、綺麗にサイドの髪を編み込んだ。普段はしないメイクすら、薄くではあるけれど、それでもゆっくりと時間をかけて施す。

全ての支度をし終えたあと、鏡に映る自分を、まるで薄いベールを一枚隔てて見ているかのように冷静に見た。

生きてきた中で一番綺麗に着飾った自分の姿。何度も見てはおかしなところはないかと確認する。
それは、自らの美しさを眺める女というよりは、対象の研究物を観察する研究者の視点に近かった。


…蓮田くんが死んだ。わたしの世界の全ては崩壊した。もう、何も意味はない。


彼はわたしの全てだった。彼がいなくなった今、もうこの世界にいる理由がない。彼とわたしの間には何もなかったけれど、それでもそれだけ、わたしの中の彼への恋情の思慕は強かった。

好きなんだ、蓮田くんのことが、たまらなく、好きで好きで仕方ないんだ。


楽しげに街を歩く人の間をすり抜けて、真っ直ぐに目的地へと進む。彼らとは別の場所にいるような錯覚すら覚えるほど、わたしは人々から浮いていた。

餌を欲しがる魚のように顎を上げ、深く肺いっぱいに空気を吸い込む。いくら吸っても苦しくてたまらなかった。ぱくぱくと餌を強請り狭い水槽の中を窮屈そうに泳ぐ魚と、深く深く息を吸っても吸っても満たされない自分の滑稽な姿が、脳内で笑えるくらいに重なった。