大学も勿論彼と同じにしようと思っていたけれど、彼は進学ではなく就職を選んだ。
わたしも同じ道を選びたかったけれど、厳しい親がそんなことを許してくれるはずもなく、行きたくもない大学へと進んだ。

蓮田くんの笑顔が見れなくて、カラッポの、空白だったこの3年間。それでも、いつかどこかで彼に会えたらと、それだけを願って生きていたのに。



――桔梗(ききょう)ってさ、そういえば、蓮田のこと好きだったよね、昔



昨夜掛かってきた、懐かしい友人からの電話。久し振り、と挨拶を交わし、懐かしい話題に盛り上がった。しかしふと友人の声がシリアスなものとなり、ポツリと零すようにその台詞を口にしたのだった。

久々に鼓膜を震わしたその響きだけで心臓が速くなる。それを悟られないように、「そうだよ」と何の動揺も見せないように平静を装った。今でも好きだということは隠したまま。

隠したことに特に意味はなかった。強いて言うのなら、第六感のようなものだろうか。

すると彼女はそんなわたしの小芝居を見破ることなく、声を潜めるにして、衝撃的な事実をわたしに告げた。



――蓮田が事故で死んだっていうの、知ってる?

――通勤するときだったんだって。その日蓮田体調が悪かったらしくてね、ふらっと貧血起こしてホームに転落して、轢かれた…って

――1か月くらい前のことらしいよ


がつん、と頭を殴られたみたいだった。どくんどくんと、血の巡りが感じられるように思えて。頭の芯は熱いのに、指の先はまるで氷のように冷たい。携帯電話越しの彼女の声が、遥か霧の先から聞こえるように現実味がなかった。

…わたしは、蓮田くんのいない世界で、1か月も生きていたの?信じられない、信じたくない。だって、そんな、まさか。

ダムが決壊したように感情が氾濫し、襲い来る吐き気。気持ちが悪い。だってそんなことあるはずない。彼は、蓮田くんは、わたしの全てなのだから。

わたしが 彼のいない世界で 生きていけるはずがないの

…それから後の記憶はない。何を話したのかすら判らない。

ぐるぐると頭の中で回っていたのは、蓮田くんの死というフレーズのみで、それ以外のことなんてどうでも良かった。ただ喉元まで込み上げてくる吐き気をやり過ごし、適当に話を切り上げ、電話を切ってからほうっと息を吐いた。

ああ、もう、何もかもがどうでもいい。このまま地球が壊れてしまえばいいとすら思った。けれどいくら待ったってそんな時は訪れるはずもなく、緩やかに時は過ぎて行く。それならば、と気だるさを押しやって立ち上がった。

世界が壊れることがなく。時が止まることもなく。誰かかわたしを壊してくれることすら望めないのなら。


…わたしが、自分を壊してしまえばいいだけのことだ。