こっちを向いて、恋をして。


「練習、ときどき見に来てるよね」

「っ……!」

にっこりと笑顔で言われた言葉に、忘れかけていたことを思い出す。

「お願い!それ、朝日にはっ」

「言わないよ」

だから……と、言わんばかりに、あたしの前に差し出された手。

「え……」

握手で……いいの?

こういう時ってドラマや漫画だと、決まってあり得ないような要求をされるのに。

現実は、あまりにあっさりとした口止め料に、あたしは拍子抜けしながら手を伸ばした。

だけど……中村くんの手のひらに、あたしの手のひらが重なった、瞬間。


グイッ。

「わっ……!」

温かいその手は、まるで畑からカブでも引っこ抜くように、あたしの手を突然引いた。


ぐらついた体は、何歩が前に動いて。

中村くんの胸にダイブしそうになるのを、爪先立ちで寸前で堪える。

「なっ、何すんのよ!」

手を掴まれたまま睨みつけると、クスッと中村くんは笑って。


「朝日はどうだか分かんないけど、俺は大西さんの性格、嫌いじゃないよ」


と、言った……。