「ちゃんと弱火になってるから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

優衣がクスッと小さく笑うけど、離れられない。

だって。

「でも、石丸くんが楽しみにしてるなんて言うとか、珍しいね」

「そう!それなのっ!」

ぐるん。

あたしは何とかポニーテールにした髪を揺らして、優衣の方を向いた。


だって、朝日があたしに「楽しみにしてる」なんて言ったの、今日が初めて。


「プリン、好きなのかな?」

「わかんない……」

そんな話、一度も聞いたことないし、朝日がプリンを食べている所も見たことないけど、

不意にあんな笑顔を見せられたら、失敗するわけにはいかなくて……。


パラパラと料理本をめくる優衣を横目に、手にしたキッチンタイマーと鍋を交互に見つめていたら、

「何か気持ち悪くなってきたかも……」

蒸し上がる玉子と甘い匂いに、胃に収まっていたはずのお昼ご飯が、少しだけ上がってきそうになった。