こっちを向いて、恋をして。


「え……」

「そんな見てたつもりはなかったんだけど、見てたならごめん。岩崎に彼氏いんのは知ってるよ。……別に、どうにかなりたいとか、考えてるわけじゃないから」

「以後気を付ける」と、付け足して、席から立ち上がる彼。

思っていたのとは違う反応に、心の中がざわざわする。

そんなあたしを残して、彼は教室を出ようとした。

だけど、

「……大西」

呼ばれた名前に振り返ると、


「俺の勝手な片想いだから、それだけは見逃して。てか、内緒にしてて」


そう言って、彼は初めてあたしに向かって微笑んだ。

とても切なそうで、悲しそうな顔で。



最低な人。大嫌い。
口も聞きたくない。

そんな相手に、あたしが恋をしてしまったのは……この瞬間。


だって、ずるい。

あんなに性悪で、血も通っていないような冷酷な顔をするくせに、

たったひとりの女の子のことで、戸惑ったり、顔を赤くしたり、そんな寂しい顔をするなんて……。


彼の気持ちが移ったみたい。

あたしはひとり立ち尽くす教室で、泣きそうになった。