こっちを向いて、恋をして。


「ね、優衣!そういえば、直大さん何て?」

意地悪だって分かっていながら、あたしは横入りして、問いかける。

ふわりと鼻をくすぐる、紅茶の香り。
売り物みたいに整った形のパウンドケーキは、あたしも味見させてもらったけど、本当に美味しかった。

こういうのを“作った”って言うんだよね。
あたしのは、ただのおままごとだって、分かってる。

それでも……。


「あ、うん。後から家に来るって」

頬をほんのり赤らめ、嬉しそうに言う優衣。

優衣は少し鈍感。
朝日の気持ちに、全く気付いていない。

だから、今こうして3人でいられる状況があるのだけど……。


「えっ!? じゃあ早く帰らなきゃいけないんじゃないの!?」

「そう……だね。そんなに急がなくても、大丈夫だとは思うけど」

「ううん!すぐに荷物まとめる!」

言いながら、自分の席へと向かおうとしたあたしは、チラリと朝日を見た。

あたし達から目を逸らした彼は、面白くなさそうな表情。