こっちを向いて、恋をして。


「ひっどい!」

確かに、ジュースをゼラチンで固めただけだけと言えば、そうだけど。

「猿には料理なんて、出来ません!」

いー!っと歯を出し、不機嫌になった表情をぶつける。

だけど朝日はさらりと無視して、

「岩崎さんは何作ったの?」

と、問いかけていた。

「あたしは紅茶のパウンドケーキ」

「食べる?」と尋ねながら、タッパーのフタを開ける優衣。

朝日は差し出されたそれから、一切れのケーキを摘まんで、口に運ぶ。

そして、

「んまっ!」

あたしの時とは違う、驚いて、感動したような顔。

対する優衣は、「良かった」と、微笑んで……。

その光景に、チクンと胸が痛んだ。


目の前の彼、石丸 朝日(いしまる あさひ)は、あたしのクラスメート。

サッカー部で、全員坊主の野球部とは違い、少し長めの黒髪。

背は高い方で、顔も……イケメンの部類だと思う。


顔を合わせば、ケンカばかりしてしまう彼は、あたしの好きな人。

そして……

彼の好きな人は、優衣。