待つ空


ゴミ袋がいっぱいになると、私はようやく立ち上がる。
ずっと屈んでの作業だったので、腰が若干軋んだ。
このゴミ袋を焼却炉へ投げ込んだら、私はもう2度とここへは来ない。

そう思いながらも袋をしっかりと結び、私は焼却炉のある施設裏へと早足に向かった。
指定された籠の中にゴミ袋を放り込み、両手をパンパンとこすって土埃を落とす。
軍手を外すと、私は大きくのびをした。

通ってた高校も、この老人ホームも、暮らしている家も、私にとってはどうでも良いものだった。
明日世界が滅ぶとしても、泣きじゃくりながら守りたいような場所は1つもないわけで。
今日中に自分が死んでしまうとしても、今すぐに会いたいような人は1人もいないわけだ。

中学の2年間と、高校の1年間、私はいじめられていた。
学校へ通えなくなってからは、両親に毎日のように罵られた。

「こんな恥ずかしい思いをするためにあの子を産んだ訳じゃないのに。
今まであの子に掛けたお金は全部ムダ!
これまでの養育費すべて払って私たちの前から消えてくれればいいのに!」

お酒を飲んだ母親がリビングで溢した言葉を、私は扉の反対側にもたれてずっと聞いていた。

(子どもを思い通りにしたいのなら、たまごっちで遊んでいれば良いのに)

そう思いながら、自分の手首に何度も平行線を刻んでいた。

学校でいじめられるのは勿論辛かったし、先生に信用されない日々も苦痛で仕方がなかった。
クラス全体から白い眼を向けられた日は苦しさのあまりトイレで吐いたし、通学電車の中で何度もお腹が痛くなった。

それでも、母親に消えてくれればいいと言われたことが、私にとっては1番辛い出来事だった。

何のために3年間も学校へ通っていたのか、自分は一体何と戦おうとしていたのか、一気に答えが分からなくなった。