取り敢えず、
自分の席へと向かう、
やはりスマホはそこにあった。


「はふれほの?」(わすれもの?)


「ええ、表に出て気づいて……。」


「よはっはへふへ。」(よかったですね。)


「そうですねぇ……駅まで行ってたら
ちょっと、面倒ですよね……って
課長、何言ってるのか
よくわからないんですけど……。」


「フッフッ……それもそうですね。」


漸く、口から一旦、
棒つきキャンディを出すと
石倉課長は言った。


「口止め料ですよ。
棚橋さん。」


課長が食べているのと同じ
丸い玉が先についた
棒つきキャンディを
ポケットから出して私にくれた。


「わ、たしに?」


「ええ、ですから
この事は内密に……よろしくどうぞ。」


全くもって、
いつもと同じく絶対的な威圧感を
出しながら言うものの、
その目は珍しく優しげな三日月をしていた。


「あ、ありがとうございます。」


「どういたしまして。」


そう言うと、また棒つきキャンディを
口に加え、パソコンの画面を覗く顔は
やはり、目が笑っていなかった。