コーヒーを淹れて戻ると甲斐社長が詳しい構想だとか交渉の進捗を教えてくれた。まだ疑ってる人はいるみたいだけど、九割方賛成なんだって。
すでに空き家の半分は及川商事との間で折り合いが付いてて、数軒ずつ着工していくみたい。纏めてやれば早く安く出来るけど、そこは住民の生活第一で考えてくれる。
これを機に商売を始めたい人がいれば、随時コンサルティングしながら、予定してる出店内容から地元の人を優先して選ばせてくれるみたい。増改築の費用も巽産業が無利子で貸し付けて、売り上げから毎月自動的に引いていく。ショッピングモールのテナントみたいな感じなのかな?
新規で他業者は入れずに、三社直下の子会社だけを使うから、地元と三社の繋がりが強くて、お互いに責任関係もはっきりした事業になるみたい。これに関しては関連企業や取引先もシャットアウト。材料発注とか末端程度でしか噛ませないって。

「必ず成功させる」
「一緒に行こうね」
「ああ」


それから古くも新しく私の郷里が甦ったのは二年後。交通網も湯治に来るご老体を考えて、整備された。側の駅からも景観が辺りに合わせて整備されて、新たに土地に合った樹木や植物を植えていく。
少しずつ出来ていくのを見るのは楽しい。休みの度に省吾さんと見に出掛けて、イメージと違うとすぐに甲斐社長に連絡を取る。ちょこちょこ修正出来るのは一度に着工しない事の利点だって。
まだこの事業は赤字の状態だけど、必ずそれ以上の黒が出るって三社ともが確信してるって省吾さんは言った。


完成予定まで一年を切った頃…。あれから何度か集まってご飯食べたりして、今日は初めて一緒に視察に来た。

「……ぅ」
「呉羽?」
「……ん…何でもない」
「顔色が悪いな…一度実家に寄せてもらおう」
「大丈夫、帰りくらい我慢出来るし」
「我慢する必要があるくらい辛いのか?」
「う゛…」

甲斐社長の勧めで私と省吾さんは一度うちの実家に寄ってから帰る事にした。

「車にでも酔ったんでしょうか?」
「違うよ、省吾さん」
「そうねぇ、車酔いではないわ」
「では…?」
「ここが生まれ変わる頃には生まれるかしら?は・つ・ま・ご」

お母さんの言葉に省吾さんがあからさまに驚いて、ゆっくり近寄って来た。まだ…欲しくなかった?

「念願の第一子…だな」
「…嬉しい?」
「当たり前だ、君との子だぞ?」

後から病院にも行ったけどやっぱり妊娠してた。みんな喜んでくれたけど、店長だけは複雑な顔してた。
出産前まではやっぱり働きたい。省吾さんは反対したけど、たくさんの人に触れ合う機会のある仕事だから、休み休み胎教にも良さそうだし。店長も本部に掛け合ってくれて。甲斐社長が許可をくれた。
省吾さんは心配して時間さえあればお店に様子を見に来るようになった。
何だか忙しい毎日になりそう…だね。