私も一緒なんて…無理無理っ!写真とかあり得ないもんっ!!

「もう決まっているから逃げようもないけどな」
「う゛~」
「まだ間に合うな…明日の食材でも買いに行くか」
「うん」

新居…じゃなくて、もう我が家だっけ。ここからは夜11時まで開いてるショッピングセンターもあるから便利。

「あ!征くんたちのお皿も買っていい?」
「そうだな。必要なものは揃えておこう…いずれ俺たちの子供にも必要になるからな」
「っ」
「四人までなら兄弟も増やせる。今はゲストルームだが、将来的には子供部屋だから」
「っ~、ま、まだ早いよっ」

そんな事まで視野に入れてたなんて…恥ずかしいけど嬉しい…。
征くんと燐ちゃんの食器セットとエプロン、大人が座る椅子に付けられるベビーチェアー…食材も含めると結構な荷物だったけど、やっぱり省吾さんとの買い物は楽しい。
子供出来たらもっと楽しいかな?

帰ってからは明日の下拵えをした。

翌日は東雲さんが旦那様と予定より早く来てくれた。東雲さんの旦那様とはパーティーでちらっと顔を合わせたきりだったけど、副社長っぽくないワイルドな人。

「早く来た甲斐があったな~。初音の淹れるコーヒーが最上級だと思ってたけど、さすがカリスマカフェスタッフ!」
「当たり前よ。プロなんだから」

濃いめで熱くなんて注文に不安だったんだけど、東雲さんの旦那様の輝一さんは喜んでくれた。東雲さんは私を手伝ってくれる為に早く来てくれたんだって。征くんたちの用意に何がいるか、事前に東雲さんに聞いてたから。

「何でも食べるわよ?リアちゃんの方針でね」
「一応、アレルギーが強く出そうなものは使わないようにしてありますけど、こんな感じで大丈夫ですか?」

予め使った食材や調味料はメモを取ってある。確認した東雲さんは【Excellent!】って褒めてくれた。
それからすぐに及川社長が来て、自炊が得意な及川社長も手伝ってくれて。
征くんたちの用意に手間取ってたらしい甲斐社長一家も到着。着いてすぐに甲斐社長まで手伝ってくれて…料理は甲斐社長が担当してるなんてちょっと驚いた。リビングでは料理をしないリアさんと輝一さん、甲斐社長の秘書の井原さんに省吾さんがお喋りしてる。


「お料理出来る奥さんいいなぁ」
「アンタはキッチン出禁だもんな」
「…出禁?」
「結婚当初、カレーを作ろうと思ってじっくり煮込んだら煮込みすぎて鍋は焦がすわ中身は消えるわ部屋中焦げ臭いわで、甲斐先輩から料理は作るなって言われてるんですよ」
「…中身が…消える?」
「煮すぎて消滅したんでしょうね…とにかく臭いが…玄関からクローゼットの征志郎のスーツまで」
「暫く臭い消えなくて困りました~」
「おかげで移ったばかりの新居から臭いが消えるまで、何度も業者を入れてたっぷり二週間…ホテル暮らしを強いられたがな」

キッチンから甲斐社長が嫌味たっぷりに声を掛けた。

「実に有意義なホテル暮らしだった」
「ごめんったら」

嫌味には聞こえるものの表情は穏やかで。

「全く…巽社長の新妻は料理のセンスもいい。和食は繊細な料理だからな」
「そうですね。基本は素材そのものですから、素材を知ってこそ成り立つものですし」
「食べ合わせのメニューもちゃんと考えてあるし…こんなアレンジも出来るんだね」

甲斐社長も東雲さんも及川社長も…口々に褒めてくれて、慣れてなくてやっぱり恥ずかしい。

「実家はホントに田舎で…野菜も買いに行かなくてもご近所と取れたてを交換したりするくらいでしたから」
「呉羽、実は君の郷里に三社で事業を始めるんだ」

全員がテーブルに着くと省吾さんが口を開いた。

「…あそこで?」
「ああ」
「うち…及川は不動産と飲食に強いんだ。だから不動産部門で空き家や廃屋を建物とその敷地だけ買い上げる。飲食部門で土地色の強い料理や土産ものを出す」