陽子さんは、口に手をあてるようにして、足早に駅の方へと走って行った。 「朱雀……」 「騙されるな。あんなの演技だ。雰囲気に流されたら痛い目にあう」 私の肩を抱く、朱雀の手に力が入る。 「お前はオレを信じていればいい。何も考えるな」 「うん……」 そうだよね……。 朱雀だけを信じていればいいんだよね……? その日は朱雀とカラオケに行って、家まで送ってもらった。 「じゃあ、おやすみ」 「おやすみ……」 重なる唇。 別れ際には必ず、キスをするというのが、私たちのルール。