その日の夜、茜が帰ってきたのは夜中2時を回った頃だった。


 「お帰り」


 茜は何も答えずに、ソファーに腰を下ろして祈るように手を組むと俯いた。


 「茜、僕も少し大人になったんだ……」


 本当は少しも大人になんてなってなかったのかもしれない。


 でも、あの日優しく送り出してくれた茜の言葉の意味が今ならわかる気がする。


 『一つだけ忘れないで――私と佐倉さんのどちらを選んだとしても……』