顔を上げると、真剣な顔をしているジュリと目が合った。


「ハルに言っておきたい事がある」

「…なに?」

「お前、スタッフとして動く時には男装しろ」

「…、え?」


告げられた言葉に、思わず一瞬の思考停止。


「ユラと俺のファンは結構過激だから、"女"を見せない方がいい。被害に遭うぞ」

「…あー、そうだね。納得した」


確かに、面倒事に巻き込まれるのは勘弁して欲しい。

カナタの彼女になる前から、今まで散々身の毛もよだつ女の争いや駆け引きを目の当たりにしてきた。

今までも外で変装をしたりして気をつけていたから被害に遭わなかったものの、ネットで晒されたりしたらバンドにもマイナスになってしまう。

カナタと縁を切った今、私は誰が好きとかの恋愛感情ではなく純粋にRe:tireが好きなスタッフなのだから。


「じゃあ、髪ショートにしようかな。カツラでもいいけど」

「ハルさんの男装!すっげー興奮するんっすけど!」

「…お前本当にハルが好きだな」


熱狂的すぎる、とジュリに言われても悪びれずに、好きです、と答えるソラくん。


(ソラくん、私みたいな女のなにがいいんだろう…こんな可愛い男の子が)


頬杖をついて彼を見ていると、ジュリが意味を孕んだような視線を向けてくる。

なに、と聞くと、ハルが結婚しなかった理由がわかった、と耳元でニヤつきながら言った。


「馬鹿、そんなんじゃない」


照れちゃって、と小突くズッキーにも勘違いをされていると知り、頭を抱える。

…この時のソラくんへの気持ちは本当に純粋に、姉として、みたいなものだった。

この前まで近くにあったカナタの存在が遠くに薄れていって、波打ち際に立っているように静かに過去の恋愛を思い返しているような気分になっていた。