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夏期講習は…退屈で。
苦手な数式や、古語に出くわす度に…大きな欠伸が漏れた。
その度に、先生が目を光らせるから……。
何度も姿勢を正して、受験生の自覚を…取り戻す。
「終わったあ~!!」
講習の合間には、一気に解放感。
間食用に買ってきたあんぱんを頬張りながら……
ぼんやりと。
窓の外を…眺めていた。
ここから見えるのは。
グラウンドを駆ける…サッカー部の光景。
中でも、
背番号…、10。
その、背中は……。
特別眩しく見えた。
決して大きくはない体。
だけど、誰よりも…
当たりにも…強くて。
ディフェンダーの追随を許さず、前へ前へと…駆ける姿は。
躍動感に…溢れていた。
「………。いいなあ…、気持ちよさそう。」
窮屈な教室に閉じ籠る私にとっては。
風を切って走る姿も…、
流れ出る汗にも…、
その、伝わる必死さが。
羨ましかったのかも…しれない。
まだ、受験と言う大きな壁に。
背を向けた…ままだったから。
「サーワ、なにしてんのー?」
窓際に。
みっちゃんが…近づいて来て。
同じように…窓の外へと、視線を移す。
「……。ああ、サッカー部ね。」
「うん。凄いよね…、ずーっと、走りっぱなし。」
「…………。早瀬くん、どれ?」
「……10番。」
「即答だね。」
「…………。」
「ここからじゃ…、あんまり見えないや。特に早瀬くんは、ここにいるときと…別人みたいな表情になるしね。」
「…………。……そうだね…、確かに…。」
同じ学校の敷地内にいても…。
君の姿は、とても…遠い。
それから、君は…私たちの知らない顔をして。
あっちがわに…いる。
夏が終われば、また…ここに戻ってくるのに。
まるで…
手の届かない存在のようにも…思えた。


