ねえ、君にもし、もう一度会えたなら。


俺は…、さぞかし、間抜けな顔をしていたのだろう。

進藤はかつて見せたこともないような、満面の笑みを――…浮かべていた。


ヤツが、こんな風に笑うことがあるのだ…、と。
ふと――…思った。

案外…、上手く周囲と付き合っていたつもりでも。所詮は、当たり障りのない関わり。つまりは、…どれだけ視野が狭かったか、という…話だ。



「……今の顔、似てるな。」


「……え?」


「妹の…、笑った顔と。」




進藤渚の…、イタズラっぽい瞳が。

目の前の男と…重なって見えた。





『なら、センセー。……2年後…、覚悟しててね。』




こうして…時を経て。


俺にイタズラを仕掛けた張本人、その…兄貴と再会するなんて。

この、タイミングは――…偶然なのか、縁なのか。


巡り合わせとは…何とも不思議だ。




「……そっか…、調査表には同居家族しか書く欄が無なかったもんな。まさか、こんなに年の離れた妹が居たとは…。」


「俺も滅多に帰って来なかったし、何せ母親も解って無かった。そりゃあ当然だよね。」


それでも。

妹がいると…、知っていれば。
予想くらいは、ついたかもしれなかった。



もしかしたら、妹の方は…兄貴の同級生だと気付いて。だからこそ…俺らと同じようなことをしようって思ったのか…。



今ではもう、知るよしもない。




「あ…、会計…。」


「いいよ、ここは俺の奢りで。稲守…、イヤ、紗羽さんと息子さんに…買って行くんでしょ?」


「…………。」


「……安いモンだけど…、お祝い。今日って、結婚記念日でしょう?」


「…………!」


「……。あれ?忘れてたって顔してるけど。」


「………。おう。忘れてた…。」


「まあ、早瀬くんらしいよね、幸せボケって言うか…、今を楽しんでるって感じが。」


「……そう?」


「ん。それにさ、あのときの…お礼も兼ねて。」


「……?俺、何かしたっけ?」


「保健室に連れってってくれて、おまけに授業サボって…、『プルーンヨーグルト』買ってきてくれたじゃん。」



「…………。ああ、そー言えば。」



「ほらー、そういう所。ケロッと忘れちゃうんだもんなー?」


「……でも、お礼なら…、貰ったよ。オレンジジュースくれたじゃん?」


「うん。でもアレはタダで貰ったものだったし、おまけに紗羽さんにあげてただろ?あの時、ピンと来たんだよね。早瀬くんって……」


「………ははっ…。お前、案外人見てんなー。……うん、じゃあ遠慮なくゴチんなります。」



進藤が差し出すレジ袋を…受け取って。


俺らは…、顔を合わせて、ニヤリと笑う。



「進藤。渚って…、今も続いてるの?……彼氏と。」



「……?そういや、紹介したい人がいるって…この前言ってたな。」



「……ふーん……、そっか。」



それが…、誰なのか。少しばかり気になるけれど。



果報は…寝て待て、だ。







「それより、今年の同窓会には…、是非参加させてよ?」



「ん。もちろん。…また、ここに誘いに来るから。」



「……ありがとう。」





お礼を言うのはこっちの方だっていうのに…。


進藤が、あまりにも屈託ない笑顔で笑うから。



俺は、ついソレを……忘れてしまっていた。