『早瀬映志』と、お世辞にも上手いとは言えない字が…
そこには、すでに書かれてあって。
となりに…自分の名前を書くだけなのに、驚くくらいに…動悸が走った。
ペンをもつ手が。
僅かに……震える。
「……紗羽ちゃん。……俺さ…、もう、昔みたいに後悔…したくないんだ。」
早瀬が…
背後から、私をそっと…包んだ。
重なった手に。
温かい…温もり。
「………今すぐじゃ…ないよ?ちゃんと、お互いの親に会って、認めて貰って、…それから。そうだなー…、夏くらいが目標。」
「……夏…。」
「……うん。だって、俺…幹事だしね。」
「………?」
「後悔なんて…俺がさせない。」
とん、と肩に…。
君の頭が乗せられて。
柔らかい髪の毛が、私の頬を…擽る。
「………一緒に…書くか。」
二人重ねた手で、
『稲守 紗羽』、と……
ゆっくり、丁寧に…書き綴っていく。
最後の文字を書き終えた所で。
「ありがとう。」
と……。
君が、小さく…呟く。
その声が…
震えていた。
「早…瀬…?」
ペンが…音を立てて。
テーブルの上に…落ちていく。
再び肩に感じる重みと……、
それから、じわりと…伝わってくる生暖かいものが。
振り返らなくても…
それが何であるかと、気づくには…十分だった。
自信家で、
いつも笑ってて、
人を…楽しくさせる。
そんな君が、
初めて見せた…
涙だった。


