エレベーターが到着し、ドアが開くと、そこには先客が数人…乗り込んでいた。
紘子先生達は、「お疲れ様です。」と挨拶をしてから、狭い空間へと…足を、踏み入れる。
「…何階ですか?」
そう訊ねて来た男性の方に、ふと…顔を向けると。
「……あ。」
心で呟いたつもりが…
うっかり声に出てしまった。
その人は。
高校時代、女子生徒の天敵だった…
『亀山先生』だったから。
「あ、2階でお願いします!……お疲れ様です。」
ハッとして。
慌てて頭を下げると…、
亀山先生は、私の上から下までをじいいっと見据えて。
「ああ、幼稚園の先生達ですか。道理で見覚えのある顔なわけですね。失礼…、実は、随分と綺麗な方が乗ってたなあと思って緊張してましたよ。丹前、華やかな色でいいですね。」
そう言って…
にこり、と笑った。
余りにもじろじろと見るから…思い出したかと思ったけれど。
やっぱりそうでは…なかった。
私は…、可もなく不可もないような、これと言って目立つようなこともなかったし、特徴的なものも…ない。
「先生も、とても良く…似合ってます。」
紘子先生が、うまく会話を繋げて…。
亀山先生は、まんざらじゃなさそうに、「そうか?」と、モスグリーンの丹前へと目をやった。
私はちょっとだけ…ほっとして。
亀山先生に促されるまま、先に2階のロビーへと…降り立った。
「……ああ、緊張する……。これから毎年、こんなのが続くんですね。」
「アハハ、仕方ないねーそればかりは。結構、盛り上がるんだよー?この宴会!ここで高校の先生とも親しくなるっていうか…。」
「………。なんていうか、私、学生に戻った気分です…。」
「ふーん…、でもさ、高校の先生にも、卒業生何人かいるみたいだけど…。みんな全然平気そうだよ?楽しんでる感じ。……そう、例えば…早瀬くんとか?」
「…………!!」
「……ああ…、なる程ね…。紗羽先生の場合は、ソッチの緊張かあ…。」
「…いえ、違いますよ?」
「言ってなさい。顔が赤くなってるけどね。まさか温泉ののぼせが続いてるって…有り得ないし。」
「……………。」
鋭いなあ、相変わらず。
まあ…、確かに。
早瀬の存在が…緊張に拍車をかけてるのは、事実だ。


