持っていた箸を、ポロリと…落とした。
「……結婚……?」
「お互いに…いい歳だ。それに、煩わしい距離を…もう感じなくて済む。芳賀さん…だっけ。みっちゃんもそうだけど、紗羽の周りも…みんなもう身を固めてるんだろ?」
確かに…その通りだ。
同級生が集まっても、
職場でも、
その二文字は…常に、ちらついている。
羨ましくはあったけど、焦りなんて…なかった。
それが、
今…
自分の身に、降ってこようとは。
思っては…いなかった。
それに、何より……!
「………ごめんなさ…」
「『早瀬』くんは…、紗羽の、同級生なんだね。」
頭を下げた瞬間に…
思わぬ名前が、飛び出して来る。
「…………。………うん。あの…、何で、早瀬のこと…」
「この前の電話で、紗羽、そいつの名前を…呼んだよね。」
「…………!」
「一緒に居たの?」
「………。うん。」
「もしや…、浮気?」
「違う…。」
「元彼とか?」
「……違う。……友達。でも、私は……」
「俺とは逆のタイプだったんだ?」
「…………。」
「じゃあ、どうして俺と付き合おうと思ったの?紗羽から…連絡が来なくなった。つまりは、そいつとずっと繋がってて、会うようになったから?」
「早瀬とは……、今年の夏に同窓会で再会したばっかり。高校卒業してからそれまで…一度も連絡とってなかったし、会ってもいなかった。ただ…」
「……そう。……再燃ってやつね。」
否定は…できない。
「……返事は急がない。だけど…、よく考えてみろよ。高校卒業してから…何年経つ?それまで、一度も連絡とろうともしないやつが、何で今更?」
「…………。」
「そんな繋がりで、これからだって…どうなるか先は見えなくないか?」
「…………!」
「……俺なら、お前を…幸せにできる。一緒に住んで、うまくやっていけることも…分かってる。だから……。だから、応えて欲しい。」
目の前に、コトリと…
小さな箱が置かれた。


