料理はどれも美味しくて、前菜からメインに入るくらいには、満腹感が襲ってきた。
「紗羽、あのさ……。」
透は急に改まって、正座をし直すと…
私を、じっと正面から…見下ろした。
「……え。紗羽ちゃん?」
「「えっ?」」
突然…、名前を呼ばれる。
これには、透も驚いて…
ほぼ同時に、その声のする方へと…振り返った。
「……わ。本当に紗羽ちゃんだし。」
………!
「……こ……、恒生さん!」
縁とは本当に不思議なモノで……
現れたのは、子供の手を引いて…ニコリと微笑む…恒生さん!
「………。……あ。デート中?」
ケロっとそんな発言をしちゃうから。
こっちの方が…慌てそうになる。
何と言ってもこの人は…
一番の、恐ろしい人物。
どんなモノを投下するのかは…予測不能であるから。
「………えっと……。」
透のことをなんて紹介しようかと…
一瞬の迷いが生じた。
「あ。僕は紗羽ちゃんのただの同級生なので…お気になさらず。」
『僕は』と『ただの』が強調されて…聞こえた。
「……もしかして。……『早瀬』さん?」
「「えっ?」」
これには…
恒生さんも、驚きを隠せない様子で。
「……彼は…僕の友人です。ご存知なんですか?」
…軽いジャブを放つ。
「……ああ、違いますか。……そうでしょうね。」
「………?芳賀恒生と言います。それから…あっちが嫁さん。今日は結婚記念日で……って、そんなことはどうでもいいかー…。」
座敷の遠くに座っている、色白の綺麗な女性が…こちらに気づいて、ペコリと頭を下げた。
結婚記念日…。
そうなんだ…、ここ、そう言う時に選ぶような料亭なんだ…。
「…………。奥さん、キレー……。」
噂は本当だ。
「でしょ?紗羽ちゃんの彼氏も、いい男だね。……随分と…タイプは違うみたいだけど。」
「……恒生さん!」
思わぬ先制パンチに…私はつい、声を荒げた。
「……おっと、お手洗いに連れてくんだった。じゃあ、紗羽ちゃん。またね。」
恒生さんは、仏のような穏やかな微笑みを残して…
小さな手を引き連れて…行ってしまった。
残された私達二人の間には……
気まずい空気が流れる。
恒生さんが…悪い訳ではない。
彼は思ったことを、思ったまま…言っただけだ。
全部…
本当のことじゃないか……。


