「予想以上に寒いな、こっちは。東北ナメてたかも。」
薄手のジャケット。そのポケットに手を突っ込んで…
透は、鼻の頭を真っ赤にしていた。
「冬は長靴で出勤してるよ、私。そのくらい…雪が凄い。」
「そうかー…。想像できない。来てみたいな、冬も。」
「……………。」
返事を返すことが…出来なかった。
街唯一の観光地。
有名な神社を参拝し、お堀の周りを…ゆっくりと散歩した。
「……和むね。」
「……そうだね…。」
普段無口な透が…今日はよく喋る。
久しぶりで…
彼なりに、緊張しているのだろうか。
「あ。鳩…!」
近くに、鳩の集団が…群がっていた。
「逃げないんだ?」
「うん。人間慣れしてるし、それに…、ほら。餌が貰えると思ってるみたい。」
私は、近くで餌を撒いている小さい少年を…指差した。
「……俺らもやってみる?」
「……。いい、鳥類苦手なんだ。」
「……ふーん。俺、やってみようかな。どこに売ってるの?」
「売店の前に自販機がある。」
「…………。凄いな、ソレ。」
彼は本当にソレを買ってきて。
掌へと乗せて……、鳩へと近づいていった。
「うわっ……!ちょっ…すげー集まって来る!」
バサバサと羽をばたつかせて、彼はあっという間に…鳩に囲まれた。
「おー…、食べてる!」
腕に止まった…鳩。
「……………。」
こういう顔もするんだ、と…
私は、ぼんやりとその光景を…見つめていた。
東京にいるときは、二人で買い物に出たり、アミューズメンパークで遊んだりもしてきたけれど。
流石に動物と触れ合う機会など…なかった。
ましてや、彼は…表情豊かな方ではない。
穏やかで、冷静で。
人の足元を照らしているような…大人びた人。
「紗羽、そこ…邪魔になってる。」
「あ……、すみません。」
私の腕をぐっと引いて。
その胸に…ぽすっと埋められた。
そう……、いつも、こんな感じだった。
言葉はなくとも…全てを受け入れているかのように。
どっぷりと…ぬるま湯に浸からせる。
「……ひゃっ……!」
頭に重みを感じて、思わず…手をばたつかせた。
どうやら…
鳩が頭に乗ったらしい。
それでも、昔なら泣き叫んでいたかもしれないけど…このくらいで済んだのは。
幼稚園での経験が…モノを言っている。
免疫がついていたらしい。
「あー……。餌、落としちゃった…。」
先程の少年が、残念そうに涙ぐんでいる。
「………あげるよ。」
透は、少年に餌の入った箱を手渡して…頭をポンと撫でた。
こういう所は……やっぱり変わってない。


