それから、ちょいちょいと……
彼女にちょっかいを出すようになった気がする。
「じゃーこのプリント、一枚とって後ろに回せー。」
ある日、渡されたプリント。
俺はソレを受け取って。
暫くペンを走らせる。
恐らく…10秒とかからず。
「……?早瀬くん、プリントまだもらってないけど…。」
「あ、ごめん。忘れてた。」
後ろの席の彼女に指摘されて、そこでようやく…プリントを渡す。
つんつん、と、背中をつつかれる感じがして…振り返ると。
「なにーこの落書き。しょーもな。」
予想通りに、口角を上げて…笑っていた。
「何って…。ジャムお〇さん?」
「凄いクオリティー高いし!」
「紗羽ちゃん知らないの?すげー簡単に描く方法。」
「何ソレ…、できんの?」
「おーよ。」
俺は彼女の席に向かって座り直すと…
プリントに、アンパン〇ンを描いた。
「……?コレ。アンパン〇ンじゃん?」
机に両肘立てて、ぷくーっとアンパン〇ンみたいにほっぺを膨らませる紗羽ちゃんに。
「……まあ、みてろって。」
その工程を…描いて見せた。
アンパン〇ンに…
モコモコと髪の毛を描いて。
眉もモコモコさせて。
鼻の下にも…
やっぱりモコモコの髭。
最後に、コックの帽子を被せて……
「わ。ホントにジャムお〇さんだ。」
目から鱗…って顔して…彼女は、ふふっと笑った。
「……ねえ。パン食いたくない?」
「まだ、1限終わったばかりだよ?」
「ジャムパン食べたい。」
「………。買ってこれば?」
「紗羽ちゃん、この前俺に凄いの飲ませたよねー?」
「…………。買ってこいって…催促してる?」
「あは、まさか!一緒に買いにいこー。」
「……。でも、ジャムパンはいいな。どっちかっていうと…あんパン派。」
「………。じゃー、新しい顔、買いに行こうか。」
「ソレ、違くない?ジャムおじさんが作って持ってきてくれるはずなんだけど……。」
「「…………。」」
「……くだらねーな。」
「……だね。」
「てか、購買、どこにあんのか知らないから…連れてってよ。」
「……ん、わかった。」
こんな、下らないやり取りも……
俺には、意味があった。
どうやら、彼女を笑わせるのが…好きらしい。


