若干賑やかだったのは、編入生が来たことに対する…物珍しさからだったのだろう。
好奇心に晒されながら、一人教室の前に立って。
担任に言われるがまま、自己紹介した。
「早瀬映志、今日で17歳です。『ありがとう』。」
担任を始め、生徒達がクスクスと笑って。
ヨロシクじゃなくて、オメデトウの声がちらほらと上がった。
「自己紹介で祝言を強要するヤツは初めてだよ。」
いよいよ大爆笑する担任に、少し…ホッとしたことを…
覚えている。
取り敢えず席を教えられ、その周囲の人達に「よろしく」と、小さく頭を下げた。
ちょうど、後ろの席に座っていた彼女は…
頬に笑窪を作って、軽く会釈するのみだった。
関西訛りが抜け切れない標準語で、俺を囲むクラスメートと…談笑していた、休み時間。
時折、欠伸を挟みながら…
適当に相づちし、笑顔を振り撒く。
事情聴取かってくらいに…質問を被せられたけど、相手に不快に思わせないようにだけ、言葉を選んで…会話を繋いでいくのは。割りと…得意だった。
自分でも、あきれるくらいに…、器用だと思う。
比較的目立つ風貌の男女が集まって来るのはいつものことで……。
女子の甲高い声が少々鼻についたけど、好意で話しかけてくれてるのだから、無下にはしない。
彼女らにとっては、敵か味方か。恋愛対象なのか、そうでないのか。
……そんなことを判断する、大事な工程らしいから。
けれど、クラスメートの中には、編入生にさほど興味がない人もいる訳で…。
恐らく彼女も、そのうちの一人だったのだろう。
編入してきて1週間。
プリントを手渡して、「ありがとう」と言われたくらいで。
ソレ以上の会話は……まだ、したことはなかった。
彼女は、『稲守紗羽』といった。
「しんちゃーん、買ってきたよ、『こももの天然水』!」
「おー、紗羽ちゃん。ご苦労であった。」
クラスの男子生徒が、彼女を『ちゃん』付けで呼ぶのが…印象的だったからか、すぐに名前を覚えた。
『稲守紗羽』は、休み時間になると…決まって自分の席を離れる。
すると…その席には、俺と話に来た違う生徒が座って。
必然的に…彼女を戻りづらくさせてしまっているんじゃあないかと多少気にはなっていた。
「……う…、美味しい…!しんちゃんも飲んで飲んで?」
『こももの天然水』は、そんなに旨いのか?
すげー嬉しそうなんだけど。
「……おー…、サンキュ。」
自分が飲んだペットボトルを、なんの躊躇もなく…男子生徒に手渡す。
「なるほど…。いい味だ。」
その男、『浅沼真哉』の方は…一口、豪快に飲んだものの…、顔が真っ赤だ。
「へー……。」
「……?早瀬ー、どうした?」
「ん、いや?なんも。」
こういうことの勘は、鋭い方だと思う。
たった数日で、何となく…人間関係を理解し始めていた。
派手目なグループ。
ちょっとマニアックそうなグループ。
真面目なグループ。
色んな人達がいたけれど……
どうやら、彼女はあまりそういったものに囚われる子では、ないらしい。
化粧の派手なギャルと談笑することもあれば、
学級委員と真面目に語らうこともある。
特に、おっとりとした『佐田美那子』とつるむことが多いけど……
浅沼真哉や、芳賀恒生といった男子生徒とも、コントばりにアホなことをしては…
楽しそうに、笑い声を上げていた。


