「あ。えーじ先生!」
突然降ってきた、そんな声に…
私は、思わず…顔を伏せた。
「何してんのー?」
先生って呼んでたから。
きっと、生徒に…違いない。
「………。……何って……。……買い食い?」
「アハハ、いーなー、うちらにもなんか奢ってよ。」
「はあ?やだ。つか、早く帰れよー?大分暗いし、何より…寒い!」
私は、気まずくて…。
彼らに、背を向けた。
途端に、ジャケットに入れていた携帯のバイブが…鳴り始める。
なんていいタイミングだ。
縋る思いで、画面を開くと…
その、浅はかな考えが…一気に砕け散った。
「………。……なん…で?」
何故、このタイミングに…?
そう思わずに居られなかったのは。
携帯に表示されたその名前が…
ひどく、懐かしいものだったから。
ぎゅ、っと、握り締めたまま…
一度、後ろへと…振り返る。
早瀬は、まだ生徒達と…談笑している。
……出るべきだろうか。
でも、………今?
「……………。」
表示された名前、
『菅原 透』の文字は……
まだ、消えない。
「………。電話?」
背中に届いた、早瀬の声。
それと同時に……
着信は、ピタリと途絶えた。
「……あ…、うん。てか、ここ高校の近くだから…生徒さんによく会うでしょ?早瀬、名前で呼ばれてるんだねー…、なんか、変な感じ。女子高生って可愛いよね、『奢って』だって!やっぱり早瀬って人気あるんだね…。ほら、インターンシップに来てた生徒達も……」
「………。よくしゃべるね。」
「………!」
「……なんで、後ろ向いてたの?」
……ああ、
見透かされてる……。
「………だって、生徒達に見られたら…めんどくさいでしょ?…誤解されたり、噂になったり…。」
「……別に、誤解されるようなことも、弁解しなきゃいけないようことも…何ひとつ、ないけど。」
目が…
笑っていない。
「紗羽ちゃんからしたら、そうかもしれないけど。」
「……違っ……」
「違わない。だったら、堂々としてればいい。俺らの仲は…、隠すような関係?」
「……え…?」
手の中の携帯が、また…震え出す。
「鳴ってるよ、携帯。」
わかってる。
わかってるけど……。
「……出ないの?」
射抜くような視線で…見ないで。
「……いーから、出ろよ。」
「……でも、」
「……彼氏だろ?いいから…出て。」
「………!」
君は…何もかもわかった顔して。
そのくせ…寂しそうな顔して。
なのに…強い口調で、そう…言い切った。
君の目の前で、電話に出るなんて。私には出来ないって…知らないでしょう?


