「……さて…、と。そろそろ帰んねーとな。長居し過ぎてサボってんの亀山先生にバレたら面倒だ。」
矢代先生は、一気に話し出したかと思うと
一方的に…それを打ち切った。
「……亀山先生?」
「……ああ。今や…教頭だからな。当時もそうだったが…まあ、いろいろあって、頭が上がんねーんだ。」
「……。……すみませんねえ…。」
「お。自覚あるんだな、一応。」
「……………。」
「お前らの尻拭いしてる暇はねーんだ。今の子供達を…見てやんなきゃならねーからなあ。」
先生は、私の肩をポンポン、と2回叩いて。
ニヤリと…笑う。
「……見てやってくれよ、『先生』。生意気かもしれんが、あいつらもまた…、俺の可愛い教え子なんだ。」
はい。
……わかります。
先生の目は、あの頃のまま……
わくわくとした瞳で、彼らを見守っているから。
私も、立場は少し違えど…
同じように「教師」になって。
初めて矢代先生の気持ちが…わかった気がします。
大人になってまで、私を…、
私達を見ていてくれて…
「……ありがとうございます。」
「……?礼を言われることはしてねーぞ?」
「……いいんです、それでも…、ありがとうございます。」
「………。2度言うか。余るくらいだっての。………あー…じゃあ、それなりの見返りを……。そうだ…。稲守!お前、写真持ってくる時…あの青くさーい写真、抜き取って来いよ?お前にやるよ。」
「ええっ…?」
「俺は、お前たちとはながーい付き合いになりそうだしな。今度は教職去る時にでも…期待してるよ。それに……な、いい土産も頂戴したことだし。」
「………ん?」
先生は、ポケットに隠し持ったカメラを取り出すと…
「にに~~ん♪」
茶目っけたっぷりに…
それを、指差した。
「ま、まさか……。」
「ははっ…バカめ、ナイススマイル激写ー。」
「撮さないって言ったじゃないですか!」
「甘いっ。いい顔してたぞー?若作りも完ぺきだ。」
「……も~~っ!!」
「……。これじゃあ誰の陣中見舞いに来たのかわかんねーな。まあ、頑張れや。……色々…な。」
いししっと笑みを浮かべて。
「お前らー、しっかり勉強してこいよーッ!」
生徒さんたちに…激励の言葉を掛けると。
先生は、スリッパの音をたてながら…
玄関先へと…向かって行った。


