「ふと…思い出したよ。昔、個人面談して…親御さんと話した後に。アイツが珍しく浮かない顔してたから…嫌がるアイツを進路指導室に引っ張りこんで。そんときに…話した事を…。」
「アイツは、早くから進学先を決めていた。お袋さんの実家に戻る事を…親子間で話していたみたいでな。親父さんとの離婚の調停中…だった。本当は、3年になる前に引っ越そうと考えていたらしいが…アイツがそれを拒んで、なんとか卒業までいることになった。」
「……親父さんってのは、お袋さんの再婚相手で…。仕事に忙しい人だったから、ヤツには小さい頃から父親という存在に遊んで貰ったっていう記憶はないらしい。お袋さんも、そんな親父さんに気を遣っているのが分かるから…どんなに、転校が続いても、文句のひとつも言ってこなかったそーだ…。いつも笑ってテキトーに楽しんで、誤魔化してるけれど、寂しさの裏返し。どんなに仲のいい友達が出来たって、必ず…別れがある。アイツが身に付けた自己防衛だったんだろーな。」
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「お前…、本当は、どうしたいんだ?シケた面して…黙ったままで。……ここにいたいなら、そうすればいいだろう?」
「……。これ以上引き伸ばしても意味ないですよ。どうせ皆バラバラになるんだし。」
「……それでも…、故郷だ。帰って来ることもあるだろう?」
「………。……まあ…、でも、あっちは母親の故郷でもあるし、ばーちゃんをずっと一人にはできないでしょ?」
「……。お前の意思は、そこにないのか。」
「………。母は、何だかんだ…誰かいないとダメな人なんです。俺までいなくなっては…やっていけないと思う。これから、仕事見つけて…俺が大学に行くって言ったから、それだけに…必死になる。なのに、甘えてらんないっすよ。」
「…………。」
「先生…。」
「……んー?」
「なのにさ…、ここには…思い出が多すぎます。忘れたくても…忘れられない。どうしたらいいっッスかねー…。」
「なんで忘れる必要がある?」
「………。」
「忘れたいのか?」
「………。だって、皆…忘れるんですよ、俺んとこなんて。いつもそうだった。二度と会うこともなければ…連絡さえとらない。執着するだけ、虚しくなる。」
「……そんな風来坊なお前が覚えているのに、他の奴等が忘れると思うか?だとしたら…、お前の努力が足りねーんだよ、バーカ。」
「……………。」
「自分の居場所も見つけようとしないで、フラフラしてたらそらそーだ!大体、まだ…、別れなんて先なんだよ。人に忘れられたくないならなあ…、もっと、踏み込め。」
「どうやって?」
「知らん!」
「……無責任だなあ…。」
「青二才め。時間があるんだから…考えろ。甘ったれんな。」
「……………。」
「………お前らは…まだ、子供だし、どうにもならんことは多いかもしれないけど…。大人になるとなあ、もっともっと身動きできなくなるもんだ。やっとけば良かったなんて後悔しても…世間体とか、しがらみがまとわりついて…どうしようもない。」
「……………。」
「自分なりの突破口、見つけてみろよ。」
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