「お疲れ様、名助手だったよ。」
缶コーヒーを飲みながら…
早瀬は、満足そうに微笑んだ。
「お役に立てて、光栄でーす(超棒読み)」
……ホント、敵わないなあ…。
「………。怒ってる?」
「………?怒ってないよ?」
「眉間に…シワ。」
彼は私を真似ているのか、極端に眉間にシワ寄せて見せた。
「そんな顔してないもん。」
「…気難しい顔。」
「…………。」
「悩み事なら、俺、聞いたげるよ?」
「………いい。」
「あ。頼りないって思ってる?」
「……そうじゃないけど…。早瀬には、わかんないよ。」
「悩みとか…持ってなさそーだから?」
「…………え?」
「ふざけてばっかいたからな、俺。そう思われても仕方ないけどねー…。」
音楽を流しながら、ボリュームを調整する彼の表情に……陰りがさす。
「…………。」
たまに…早瀬は、こういう顔をする。
だけどそれはほんの一瞬で…。次の瞬間には、あどけない笑顔を見せて、誤魔化すんだ。
「……なーんて、ね。」
にこっと…
目を細めて。
早瀬が…笑う。
「……あ……。」
頭上から……
パラパラと、小気味よい音が…聞こえてくる。
「…雨、本降りになってきた。」
「……うわ……、ホントだ。」
さっきまで見えなかった雨粒が…
テントの中からでも、ハッキリ見える程になっていた。
「紗羽ちゃん、大きめのビニールなんてある?」
「あるけど…」
「それ持って来て…、手伝って!」
雨の中へと……早瀬は走り出す。
「………ま、待って!」
私は事務用品のはいった箱から、透明ビニールを引っ張りだすと……。
早瀬の背中を追って、テントを飛び出した。


