準備は順調に進み、手伝ってくれた保護者の方へとドリンクを手渡して。
各々に…解散していく。
「紗羽先生。……早瀬先生にも渡しておいで?」
紘子先生からの、キラーパスをうっかり受け取って。
ドリンクを握りしめたまま……
早瀬のいる、本部へと向かう。
……気まずい。
さっきあんな態度とってから…、一度もしゃべってないし…。
それでも……、
沢山の目が、こっちを見ている。
立場をわきまえて、普通に、普通に……!
「早瀬先生、お疲れ様です!」
緊張で……少し声が上擦った。
「…………。誰かと思った。」
差し出した缶コーヒーを受け取りながら、彼はふうっと息をついた。
「………変!」
「……え。」
「……変。紗羽ちゃんに、先生って呼ばれんの。」
「………?そっちだって、私のことそう呼んでたじゃない。」
「紗羽ちゃんは…、そういうの、気にするタチだからだろ?」
「………!」
「大体、今日は何?なんでそんなによそよしーの?」
「………そんなこと…」
「あるね。わざと俺んとこ…避けてたじゃん。……何で?」
ほら……、やっぱり、鋭い。
勘ぐられるのが…怖いから。
だから…近づかなかったのに……。
「……ま、紗羽ちゃんのことは……大体わかってるつもりだからいーけど…。」
……いいんかいっ。
「ちょっと傷つくよなあ。……意地悪も…したくなる。」
「へ?」
途端に彼は、手にマイクを握って。
『紗羽ちゃん、聞こえますか~?』
マイク越しに…語り掛ける!
「ちょ…、早瀬?!なにやって…。」
グラウンドいっぱいに響き渡った音声に。
みんなが……こっちをへと振り返る。
『マイクのテスト中~。』
「ねえってば!」
私の声を……聞き入れてくれない。
『うるさいな。音響も頼まれてんだよ。ほら、紗羽ちゃんもこっちのワイヤレス持って向こう側に行って。』
「は?」
『ハウリングのテスト。手伝って。』
「…………。ずるい…、駄目だって言えないじゃない。」
「偽善者ぶったり、期待持たせるのと…どっちがズルい?」
マイクのアタマを手で覆って。
早瀬が…ぽつりと、呟く。
「せっかく……近づいたのに。」


