ねえ、君にもし、もう一度会えたなら。

なにかの罠か……?


そう…思ったけれど、


動き出した時間は……止まらない。



早瀬の言うままに、発信履歴から…彼に電話を掛ける。


耳元には、着うたが…。


それから。

早瀬の手の中からも……


音楽が、鳴り響いた。




「………。見よ…、これが10年前の…想い人だ。」






彼が翳した携帯の画面には。




「…………な……、なにしてくれちゃったかな…。」


「何って…、紗羽ちゃんからの着信画面?」




ケロリと言っているけれど。


その画像は……


あの、猫がお寝顔!!!




どや顔で笑っている早瀬は、携帯を耳にあてると…



「もしもーし。」


電話へと…でてしまう。



耳元から、ソレに…

目の前から。


二つの声が…重なって。




「バッカじゃないの?!何であの写真の画像があるの?!」


ついつい…、恥ずかしさと怒りから、そう叫んでしまう。



「お?紗羽ちゃん?久しぶりじゃん。……え?GW?もちろん、帰るし。」



「…………。は……?」


なに的はずれなことを…?





「………って、言いたかっただろーな。あのときの…俺。」


「…………。」


「……聞いてるー、紗羽ちゃん。」



「……う、うん……。」



「ってかさ、もう…帰って来たから、いつでも会えるしね。」


「…………。」



「………もしもーし?」


「え、ああ……、うん…。」


「……。もう、過去にすがるのは…終わりにするよ。」


「…………。」


「馬鹿だなー、紗羽ちゃん。これでまた…繋がっちゃったじゃん。」


「……………。」


「もう、振り返らなくても…。目の前に、今の…、いや、10年先もずっと変わらない恋の相手がいる。」



「……………。」



「ありがとう、チャンスをくれて。……じゃあ、また今度。………バイバイ。」









電話が切れて、

それと同時に…



早瀬は、元来た道の方へと…歩いていく。




「………。早瀬、帰る方向…一緒じゃなかったの?!」


横断歩道を渡り終えた彼は…、道路を挟んだ…向こう側へ。







「………。そういうことにしといて。でないと俺、恥ずかしいし!」


背中を向けたまま…、彼は答える。







「…………。昔と…同じ台詞っ。」


コンビニの前で…アイスを食べた時。

あのときも…そんなことを言った。





「……。仕方ないって。あの時から…ずっと変わってねーし。」


振り返った早瀬は……少し、困った顔。




「…………。……そうかな…。」



「……そ。ちょっとだけ、俺のが…背が高くなったくらい?」




「…………。」




チカチカ…、

赤の点滅は……止まらない。





道路の向こう側。

赤信号に阻まれた…若き日の、私。



もどかしくて、焦って…、

だけど、どうにもならなくて。




私達は…あの頃のまま…?






「…………。身長も、追い付けなかったね。待っててくれるんじゃなかったの、早瀬…。」




「え?」