あのときと…同じ。
笑うと…目が細くなって。
目尻に…シワが出来る。
屈託ない……笑顔。
私は、何が可笑しいのかも…わからずに。
なのに、いつもつられて…笑ってしまうの。
人を笑顔にさせる才能が、この人に…あるのだろうか。
「あのとき歌っていたのは…『雪國』。かわいい顔して、あんな低音の歌を切々と歌い上げてるんだもん。もーおかしくて可笑しくて。」
「………。よくまあ…覚えてるよね。」
「覚えてるよ?紗羽ちゃんのことなら、大概。」
「…………。」
「このカクテルの名前は…『雪国』。縁にグラニュー糖がついてるだろ?雪をイメージしたスノースタイルになってて、一口めは甘いのに…、柑橘の爽やかさが絶妙なバランスを作り出す。」
早瀬は、長い指先で…グラスの縁に触れると。
それを…口元に運んで。
ぺろり、と舐めた。
「…………!」
色っぽい…仕草。
艶のある瞳が、驚く私の姿を…捕らえていた。
「見る度に…紗羽ちゃんを思い出してた。」
「やだな…、上手いね、そうやって…バーテンしながら女の子口説いてたんだ?」
「……。女の人にはこのカクテルは…作ったことはないよ?特別な思い入れがあるから。」
「………。」
『特別な思い入れ』。
それは……
私に対するものなのか、聞くにはまだ…
勇気がなくて。
幹事だからとお酒を控えていたことに…
少し、後悔する。
グラスを手にとって。
一気にそれを……飲み干す。
「気をつけて。」
「……え?」
「飲み口いいけど、案外度数あるから。…足腰立たなくなるよ。」
「…………。なら、飲ませないでよ…。」
「ははっ…、紗羽ちゃんは相変わらず、隙だらけだ。」
そう言う早瀬は、獲物を狙う…豹みたい。
自分の魅力を武器にして、
艶やかに……、隙を突く。


