手にしたインスタントカメラを構えて。
教室の中を、ぐるりと一周……ゆっくりと見渡す。
レンズ一枚を隔てた世界は。
俺と周囲との関係に…
よく似ている。
……薄い薄い…、壁一枚。
………と。
ファインダー越しに。
一人の女子と目が合ってしまう。
「……………。」
彼女の口元が……
ゆっくりと動く。
「……早瀬。何してんの?」
その声に。
構えたカメラを降ろして……
今度は、しっかりと面と向かう。
「………。紗羽ちゃんを撮ろうかなって思って。」
「またまた~。」
適当に返答するから、彼女も軽く受け流す。
適度な関係。
クラスメイトの稲守紗羽は……
こうやって、丁度よい距離を保ちながら話せる……
唯一の女子でもあった。
女の子にしては…長身。
その視線の高さは、俺と殆ど変わらなくて……。
しょっちゅう、視線がぶつかってしまう。
けれど、彼女がそれを気にすることはなく。
さりげない会話のきっかけに…なるだけだった。
「カメラかあ、いいね、私も修学旅行に持っていこっと。」
「……。いーね。俺もこれ使い切って、新しいの持ってこ。」
パシャリと放った小さな光に……。
彼女は眩しいそうに…目を閉じた。
「……ヨシ、やっとフィルム使い切った~。」
「……待って。今何を……」
「………。テキトーに撮ったから、現像しないとわかんないや。」
その写真は、結局ブレていて……
本当に何を撮ったのかわからなかったけれど。
彼女の髪のさらさらとした質感だけは…何故かリアルに写し出されていて。
何となく……
捨てる気には、ならなかった。


