おじいちゃんがその病にかかったのはあたしが高校に入学した頃からだ。初めは箸をよく落したり、何もない所で躓いたりして、もう年なんだなぁなんて思っていたけれど、実は脳の病気で、神経変性疾患のひとつだと気づいたのはだいぶ症状が進行してからだった。

この病気にはまだ治療法がない。おじいちゃんの体はだんだん動かなくなって、関節が曲がらなくなり、今ではほとんど寝たきりだ。表情に乏しく、痩せた体は棒のように冷たくて固い。

おじいちゃんはもうすぐ石になる。

おじいちゃんが病気になってからというものおばあちゃんは変わってしまった。穏やかで優しかったおばあちゃんが愚痴っぽくなり、いつもいらいらしている。顔つきも変わってきた。あまり笑わなくなって、眉間の縦じわが意地悪に深くなり、時々あたしがびっくりするような汚い言葉をおじいちゃんに浴びせる。

おばあちゃんが鬼になる。

でも、浩人が来ている時だけはおばあちゃんの機嫌が言い。腕によりをかけてご飯を作り、浩人をもてなす。浩人はおばあちゃんの相手がうまくて、おばあちゃんを笑わせてくれる。おばあちゃんは浩人を気に入っている。浩人がいるとおばあちゃんは昔のおばあちゃんに戻る。おばあちゃんが嬉しいと、あたしも嬉しい。

おばあちゃんが鬼になって、おじいちゃんが石になりかけても、お母さんは戻ってこない。