少し息苦しくなって、あたしは首に巻きついた浩人の腕をそっとどけた。「ううん…」と浩人は唸って、背中を向けた。

浩人の背中にはたくさんの痣がある。新しい紫色したものや、黄色くなったものまで。浩人のお父さんは、時々浩人を殴ったり投げ飛ばしたりするらしい。

どうして？と聞くと、親父は柔道家だから、と浩人は答える。ものすごく誇らしそうに。

浩人のお父さんは傷ついている。とても愛していた奥さん（浩人のお母さんだ）に裏切られて、それで、ちょっとだけ心が病んでいるんだそうだ。そして、それは、自分の責任でもあるのだと浩人は言う。

（だから、親父は悪くない。親父は最高の親父で、腕のいい理容師なんだ）

確かに、浩人のお父さんはあたしにとても優しい。だから、本当はきっと浩人にも優しいのだろう。

耳を澄ますと、一階の部屋から物音がした。それからくぐもった二人分の声も。おじいちゃんがまた夜中におばあちゃんを起したのだろう。オムツが汚れたと言って。