Hair cuts

「あー、そういえば、俺たちデートとかしたことなかったよな」

俺の言葉に、さくらは不意打ちをくらったような顔をした。

「あ、ごめん。そういうつもりで言ったわけじゃないんだ」

「あ、そう?」

なんだ、拍子抜け。そんでもって、少しがっかりしている俺がいた。

沈黙。

浩人たちがいる時はいいんだけど、二人きりになるとイマイチ話が弾まない。初めて送って行った日もそうだった。桜祭りの帰り、浩人が愛華を誘い出すために仕組んだ日のこと。会話が続かなくて、沈黙に耐えられなくなった俺は音楽をかけた。「カーペンターズ」。母の趣味だ。

「夏休み…」

囁くような声でさくらが話し始めた時、

ごぉん…。がたん、がたん、がたん…。

貨物列車が通過した。しかも結構長い。なんだよタイミングわりぃなと思っていると、さくらが声を振り絞った。

「夏休み、二人で遊べたらいいな」

電車が通過し、放課後の教室が静まり返った。俺の反応をさくらが不安そうに伺っている。

「おう」
約束なと、小指を差し出すと、さくらは少し戸惑ってから小指を絡ませた。小麦色に焼けたさくらのおでこが、西日に照らされて、滑らかに光っていた。

その日、俺は初めてさくらに触れた。