「なぁ、親父」

「んん?」

「もし俺が、一人前になったら」

「なったら?」

「店の名前、変えてもいいか?」

「何でだよ?」

「だっせぇじゃん」

むっとしたように親父が片方の眉を吊り上げ、それから、なんて名前にすんだ?と。

「hair cuts」

横文字かよ、おい、まぁ、勝手にしろや。と親父は言い残し、千鳥足で寝室へ向かった。闇に溶ける親父の背中に一瞬不吉な影を垣間見たような気がした。近頃の親父は俺を殴らない。投げ飛ばさない。相変わらず口は悪いが、表情に険が無く、穏やかだ。その静けさが逆に俺を不安にさせる。嫌な予感がする。そして、そういう予感に限って当ることが多いのが俺の人生の常だ。

その日の夜、親父は自殺をはかった。