部屋に戻り、弁当と今取って来た手紙をテーブルに置いた。それから、二つのコーヒーカップを洗ってしまおうと腕まくりをしたとき、電話が鳴った。

出鼻をくじかれた思いで電話を見つめた。固定電話に連絡してくるのは、不在を確かめる田舎の両親か、物売りしかいなかった。それ以外はみんな携帯電話に連絡をよこす。両親にしろ、物売りにしろ、今の私には同じくらい話すのが面倒な相手だった。

しかし、両親だった場合、出ないことにはやっかいだった。以前、一週間ほど韓国のロケへ同行したさい、うっかり連絡をおこたったため、私と連絡のつかない両親は、何か事件に巻き込まれたのではと大騒ぎした。最終的には会社のほうへ確認し、私の韓国ロケを知ったのだけれど、あの時は、ゲロが出そうなほど叱られたものだ。両親にも、そしてシンコ先生にも。

それで、今では長期のロケがあるときは前もって報告する事にしていた。特に今回のグアムは長かったから、無事帰って来たか確認の電話である確立は高かった。海外へ行く時、私はプライベート用の電話の電源は切っていた。でなければ、うっかり電話してきた相手に莫大な料金請求がいきかねないからだ。こちらからも国際電話をかけたりもしなかった。通話料がもったいないし、お金をかけてまで連絡を取りたい相手もいなかった。