Hair cuts

「あのノートを送ったのは遊里でしょう?」

先に沈黙を破ったのは私のほうだった。死んでしまった愛華が翌日の消印でノートを送るなんて不可能だ。となれば、それを送ることができた人間はおのずと限られてくる。現場にいた遊里、ただ一人だ。

どうしてと聞く前に、遊里ははっきりと言った、

「お前は、冷たいんだな」

低く、静かな言い方だったけれど、その声には私へ対する軽蔑の念がはっきりと込められていた。

「お前は、愛華が苦しんでいるのに、話を聞いてやることもしなかった。メールも電話も返さずほったらかしにした。その上、葬式にも顔を出さなかった」

「違う…」

そう言ったものの、何が違うのだろうと思った。確かに、そうだ。私は定期的に送られてきた愛華からのメールに時々しか返信せず、電話はほとんど掛けなおさなかった。でもそれは、こちらにも事情があったのだ。時間に不規則な仕事をしていたせいで、仕事が終わる時間はまちまちだったし、メールに関してだって。愛華は一言も自分が苦しんでいることなど綴ってはこなかった。ただ(元気にしている?)とか(こちらに帰ってくる予定はないの?)とかそんな内容で、それに対してはきちんと返事をしてあげていた。葬式に関しては日本にいなかったのだからどうしようもない。だいたいにして愛華が何に対して苦しんでいたかすら私にはわからなかったのだ。

そう告げると、

「お前、一度でも自分から、愛華はどうしてる?変わりはないかって、聞いたことがあるのかよ」

遊里が声を荒げた。遊里は私の名前すら呼ばない。そんな些細な事に傷ついている私がいる。

「愛華に聞かれたことに返事するだけで、お前のほうから、そっちはどうだ?って聞いてあげたこと、あるのかよ?ええ?」

答えることができなかった。多分ないと思った。多分というのは、つまり、覚えていないのだ。最後に愛華と連絡を取ったのはいつのことだったろう?もしかしたらお正月?毎年日付が変わったと同時に送られてくる「あけましておめでとう」のメールに私は返信しただろうか。