電車から降り、途中コンビニで夕ご飯を買い、これからしなくてはならないことを私は頭の中で整理した。まずは荷造りだった。また、疲れが襲ってきた。

三十歳。もう若くないと思うと頭痛までした。

恋人に振られ、仕事をやめ、アパートを今月中に引き払う手続きもすませたのだから、私を引き止めるものは何もないはずなのに、こうも心が晴れないのはなぜだろう。私はまだこの街に未練があるのだろうか。築き上げたキャリアを捨てることが惜しいのだろうか。

或いは、まだジルのことが…。

そんなことを考えているうちにマンションへ着いた。さっきは素通りしたのだが、さすがにポストから溢れたチラシや封書を今度は無視できなかった。何と言っても一ヵ月分だ。私は、その中の自分宛に来た荷物だけを取り、その他のチラシ類は管理人室の前にあるゴミ箱に押し込んだ。

その中に、ノートのようなものが入ったA4サイズの封筒があった。なんだろうと思い裏返してみても、差出人の名前はなかった。ただ、殴り書きされたような汚い字で私の住所と名前が書いているだけだ。きっと、宗教勧誘だろうと思った。少し前にも同じようなことがあったのだ。同じような封筒の中身はその宗教にまつわる本が数冊入っていた。

ゴミ箱に捨ててしまおうかと考えたがやめた。なぜなら、前回は、宛名も何も書いていない封筒だったけれど、今回は私の名前や住所がきちんと書かれていたのがひっかかったからだ。それに、もし宗教本なら、後々捨てればいいやと考え、部屋に戻った。