*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

汀はしとやかな声音をつくり、囁くように、しかし御簾の外まで声が届くように、音量の調整に気を配りながら応える。








「ーーー父上、ご機嫌うるわしゅう……。



大納言さま、お初にお目にかかります。

ようこそおいでくださいました。


このような邸の奥深くまで足をお運びいただき、ありがとう存じます。



礼儀知らずの娘でございますが、どうぞごゆっくりしていらしてあそばせ」








非のつけどころもない見事な応対に、兼親は満足げに頷いた。





大納言芳正も、右大臣の六の君の可憐な声に感嘆する。








「ほう、ほう。


噂にたがわず、気品ただようお美しい姫君のようですな。



右大臣どの、かような娘御をもたれて、さぞや鼻がお高いでしょう」








「いやいや、大納言どの。


もったいないお言葉、お恥ずかしいかぎりですぞ。



とはいえ、この六の君は幼い頃は手元に置いておりませんでしたのでな。


教育が行き届かず、気がかりなことも多いのですが………。



ほれ、六の君よ。


大納言どのに筝(そう)の琴でもお聞かせなさい」








「はい。畏まりました」









汀は側に控えていた露草に目配せをして、筝を持ってこさせる。