*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

そのとき、灯がぴくりと反応した。



気がついた汀が、不思議そうに訊ねる。








「あら。どうしたの、蘇芳丸」






「…………」







灯は息をひそめ、耳を澄ますようにして、渡殿の方を見つめている。







「蘇芳丸?」






「…………だれか、来る」






「え?」







汀もつられたように渡殿の方へ視線を向けたが、誰の姿も見えない。







「あら、誰もいないようだけど」






「………足音が、聞こえる」






「え………?」







しかし、汀がどんなに耳を澄ませても、何の音も聞こえなかった。







「こっちに近づいてくるぞ」






「………えっ、え? 蘇芳丸?」







灯は階も使わずに、ひょいと簀子に飛び乗った。







「ま、待って! 蘇芳丸!!」







汀も慌てて階をのぼり、後を追った。