*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

汀はふるふると首を振り、顔を伏せて、両の手で覆った。







「………う、」






「…………?」







汀の唇から漏れた嗚咽のような声に、灯が首を傾げて覗き込む。








「うれしいの………」






「………………?」







灯には意味が分からなかった。







「私、うれしいの………」






「…………」







「ここに来てから、誰も、私の名など知ろうともしなかったわ………。


ただ、右大臣の六番目の娘だから、『六の君』とーーー」







「…………」








「ミギワという名を持っていたこと、私、忘れかけていたわ………」








「…………」









心のうちを吐き出すように話し続ける汀の言葉を、灯は黙って聞いていた。