*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

「あら? どうしたの? 蘇芳丸」






急に立った青年を、六の君は驚いたように見上げる。



すると青年は、黙って自分が座っていた円座を六の君に差し出した。







「………え? 座れってこと?」






「…………」






「んまぁ。ありがとう、蘇芳丸」







六の君はふんわりと顔を綻ばせた。







「……………」







青年は答えず、黙って衵扇を取り上げると、自ら髪を扇ぎはじめた。







「優しい子ねぇ………」






「…………」







しんみりと呟きながら、六の君は思う。






(やっぱり、こんなに素直で優しい蘇芳丸が、盗人なんかであるはずがないわ。


もし蘇芳丸が本当に火影童子と呼ばれている者だとしても、冷酷な盗賊だなんていうのは、きっと皆の勘違いだわ)






六の君は嬉しそうに微笑みながら、青年と並んで春の陽気を楽しんだ。







「あっ! 髭も剃ってあげなきゃね」






「……………いらん。自分でやる」