*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

すたすたと歩き出した群雲の後を追いながら、汀がゆっくりと桜の木を振り返った。






「ーーーこの蕾が綻ぶころに、また来ましょうね」





「…………あぁ」





「お母さまが元気になられるようなものを、たくさん持って」





「そうだな」





「楽しみねぇ、蘇芳丸」





「……………」







がくりと肩を落とした灯を、汀が不思議そうに見上げる。







「………どうしたの? 蘇芳丸」






灯は眉根を寄せて汀を軽く睨みつける。







「…………そろそろ、その呼び方、やめてくれないか」






「え?」






「俺は、灯だ。


いつまでも犬ころのように呼ぶな」







げんなりとした声に、汀がくすくすと笑う。






「そんなの、知ってるわ。



…………そのうち、ね」






「……………」







にっこりと笑いかけてくる汀に、灯は脱力して、何度目かも分からない溜め息を吐き出す。






仲睦まじいやりとりを背中で聞きながら、群雲は堪えかねたように大声で笑った。








一風変わった姫君と、無愛想な盗賊の物語は、まだまだ始まったばかりだ。







〈終〉





ーーー続編へつづく



『華月譚❇︎花ノ章 青羽山の青瑞の姫』

http://www.no-ichigo.jp/read/book?book_id=1011423

汀と灯の後日談




ーーー番外編



『華月譚❇︎雪ノ章 若宮と白狐の恋物語』

http://www.no-ichigo.jp/read/book/book_id/1015306

灯の出生秘話