*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

『私は、そうは思いません。



美しいものに魅入られ、魂を奪われるのは………怖ろしいことでも、忌むべきことでもなくて。



心を奪われてもいいと思えるほどに好きなものに出会えるというのはーーー』







灯は無意識のうちに手を伸ばし、汀の目許に指を触れた。







『………とても幸せなことなのではないでしょうか』








灯はくすりと笑う。






(こいつにしては、まことらしい言葉だ)







優し気に細められた灯の目に魅入られながら、汀はその髪に手を伸ばす。





胸のあたりで波打つ、燃える篝火の赤。





触れてみると、柔らかくしなやかで、掌にしっとりと馴染んだ。