*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語

『月って、怖いのよ。


月を見るとね、魂を奪われちゃうんですって』






汀の母が言った言葉を、灯は思い出す。







『心を奪われて、空っぽにーーー。



昔からね、人々は、美しい月を怖れていたのよ。


その美しさで、人の魂を奪って、心を空っぽにしてしまうんだ、って………』







そう聞かされたあとの、汀の言葉も思い出す。







『…………本当に、月は、怖いものなのでしょうか』







澄み切った青の瞳が、物も言わずに灯に向けられている。








『心を奪われて、なにがいけないのでしょうか。


魂を奪われて、月のことしか考えられなくなって、なにがいけないのでしょうか。



美しいものに惹かれ、魅入られるのは、そんなに悪いことでしょうか』